2023.01.09 オピニオン

ツイッター等のSNSにおける「表現の自由」の問題 ~トランプ前大統領のツイッターのアカウントの復活、そしてその後~

小谷順子さん(静岡大学教授)



イーロン・マスク氏とツイッター 

 ツイッター空間における「表現の自由」の重要性を強調してきたイーロン・マスク氏は、2022年10月にツイッター社の株式買収を完了してCEOに着任すると、それまで停止されていたトランプ前大統領のアカウントを復活させた後、他の複数のユーザーの停止されていたアカウントも復活させた。一方、マスク氏はその後、自己の自家用機の位置情報に関連したツイートを行った新聞記者らのアカウントを停止したほか、競合する他のSNSサービスへのリンクの提示を禁止する方針を示したことなどもあり、マスク氏の「表現の自由」理論の援用は恣意的であるとの批判を呼ぶこととなった。そうしたなか、マスク氏は、ツイッターの投稿機能を活用し、自らがCEOを辞任すべきか否かについて投票を募ったところ、辞任への賛同票が多数を占める結果となったことから、同年12月18日、後任が決まり次第CEOを辞任すると発表した。
 ツイッターをめぐるこの一連の動きは、ツイッターないしSNS空間における表現の管理のあり方を問う契機となったと言える。本稿では、主にツイッターに焦点を当てつつも、他のSNS及びグーグルやヤフー等を含むプラットフォーム事業全般も視野に入れて、これらの空間における表現の管理の可否ないしあり方を考える。

SNS事業者とそのユーザーの関係性 ~憲法上の人権保障は及ぶのか?~ 

 ツイッター社は私企業であることから、ツイッター社がユーザーの投稿内容に基づいて個別投稿を削除したりアカウントを停止したりすることは、端的には私人と私人の間の問題であり、国家による制約を受けないという意味での伝統的な憲法上の「表現の自由」の制約の問題ではない。ツイッター社の提供する言論空間においては、ユーザーに(国家からの制約を受けないという意味での)表現の自由が保障される一方で、ツイッター社にも(国家からの制約を受けないという意味での)表現の自由(表現発信の自由、表現の場を提供する自由、提供しない自由)が保障されるほか、同社には経営の自由等の経済活動の自由も保障されることになる。つまり、ツイッター上の投稿内容やアカウントをめぐる問題は、端的には、私企業がいかなるサービスを提供するのかという問題であり、また、私企業が任意に提供するサービスをユーザーが好んで利用するか否かの問題であると言える。
 もちろん、私企業であろうとも、脅迫表現、わいせつ表現、名誉毀損表現等の違法表現を発信することが許されるものではないが、SNS事業者がそうした表現(又は違法とは限らないものの問題のある表現)を発信するための「場」を提供する役割を果たすことについて、アメリカの連邦法(47 U.S.C. § 230)は、プラットフォーム事業者を表現主体として扱うことを否定したうえで、わいせつ、卑猥、過度に暴力的、嫌がらせ、「その他不快な(otherwise objectionable)」表現の発信を防止するために事業者が講じる善意(good faith)の措置に伴う民事責任を免除することで、投稿内容の管理を事業者の自主的な対応に委ねる。そうしたなか、明らかに違法な内容の投稿については、SNS事業者がそれを削除したとしても異論は出にくい。一方、論争が生じるのは、違法性が明らかとは言えない表現でありながらも、他のユーザーに脅威を与えたり、社会の平穏を破壊したりするような表現について、いかに対処するのかという点である。現在、アメリカでは、いわゆるヘイトスピーチや虚偽情報の発信は原則的に違法化されておらず、扇動表現についても処罰対象となりうるのはごく一部である。違法化されていない表現について、SNS上でその発信を認めるかどうかは、一義的には、SNS事業者の経営判断に委ねられることになる。
 ここで、ツイッター社の私企業性に着目し、ツイッター社がいかなる表現統制をしようとも自由なのであるし、そもそも、ツイッター社の方針に不満をもつユーザーはツイッターを利用しなければよいのであるといった言説も散見される。しかし、次に述べるとおり、ツイッターの言論空間を完全に私的な空間であると評価してそれ以上の分析を打ち切ることは適切とは言えない。

 

情報交換の空間の提供者 ~情報発信の場であるとともに情報収集の場でもあること~ 

 周知のとおり、インターネット上の表現は、従前の表現手法とは異なり、世界中の一般の人々に瞬時に伝達される可能性を秘めるものであり、成長を続けるインターネット上の言論空間は、巨大な言論市場としての役割を果たす。そして、インターネット上の言論空間は、人々が自己の意見や思いを発信する場として機能するだけでなく、人々が自己に必要な情報を得るための場としても重要な役割を果たす。とくに後者の場面では、ユーザーの入力したキーワードに応じて適切な情報を提供するという検索機能も重要な役割を果たし、検索キーワードに基づく検索結果の表示は、各事業者が独自のアルゴリズムを用いてその精度の向上に努める。
 こうした特性をふまえ、グーグルの検索機能について、日本の最高裁は、それが「検索事業者自身による表現行為という側面」を有するにとどまらないと指摘したうえで、「検索事業者による検索結果の提供は、公衆が、インターネット上に情報を発信したり、インターネット上の膨大な量の情報の中から必要なものを入手したりすることを支援するものであり、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果た」すと述べている(最大決平成29年1月31日 民集71巻1号63頁)。また、SNS、とくにツイッターについても、最高裁は、それが利用者による一方的な情報発信の場であるにとどまらず、「利用者に対し、情報発信の場やツイートの中から必要な情報を入手する手段を提供する」場であると述べている(最大判令和4年6月24日裁判所ウェブサイト)。
 これらの判決が指摘するように、プラットフォーム事業者の提供するサービスは、単なる私企業による表現行為であるにとどまらず、人々の情報発信の「場」として機能し、さらに人々の情報収集の「場」としても機能することに注目する必要性がある。さらに、英語圏においては、政府機関や政治家がツイッターを通して情報を発信する場面も多いことから、政治的言論の発信の場としての性格が日本の場合よりも色濃く現れる点にも留意が必要であろう。
 

SNSにおける表現の管理のあり方 

 以上のことから、膨大な数のユーザーを擁するSNS上の表現管理の問題について、これを純粋な私的行為と位置づけて企業の完全な自由に委ねることには留保が必要であるわけだが、それでは、SNS上の表現について、どのように管理をする(又はしない)ことが求められるのか。この点については、少なくとも2つの異なる視点から考える必要がある。まず、憲法が直接に要請するものではないとしても、事業者は、重要な表現の場の提供者として、人々の表現の自由を最大限に尊重した言論空間を維持するための努力をすべきである。他方で、SNSの投稿内容が個人の手元に直接届くものであるという特性や、SNSの言論空間が多様な人々によって共有されるものであるという特性をふまえ、SNS事業者には、明確に違法な内容の投稿を防止することに加えて、違法性が明らかでないながらも他のユーザーに脅威を与えたり社会の平穏を破壊したりするような投稿についても、一定の措置を講じることが求められる。その際に留意すべき要素として、次のような点が挙げられる。
 まず、ツイッター等の主要なSNSが、重要な表現市場の役割を果たしている一面がある以上は、SNS事業者は、表現の場の提供者として、明確で公正なルールに基づいた運用を行うことが求められる。この点につき、SNS事業者はそれぞれのSNSサービス利用に関するルールを公表したうえで(たとえば、「Twitterルール」、「Facebookコミュニティ規定」「Instagramコミュニティガイドライン」)、ルール違反の投稿への対処を行っている。これらのルールに基づき、明らかにルールに違反した内容の投稿を削除したり、一定の内容の投稿(たとえば虚偽である情報や虚偽である可能性の高い情報の投稿)に警告表示を添えたりすることは、それが特定の者の表現発信の機会を完全に奪うものではなく、表現受信の機会を完全に奪うものでもないことからも、当然に行われるべきことである。
 もっとも、個々の投稿内容がルールに違反しているかどうか判断することは、ときに困難を伴う。そのため、これらのルールの運用に関するルールもまた、公正かつ明確であることが求められ、SNS事業者には、恣意的なユーザー差別を避けつつも、公正なモデレーションを行うことが求められることになる。(この点に関し、ツイッター社が投稿内容のモデレーション業務を大幅に縮小していることは懸念されるべきである。)
 また、投稿内容に関するモデレーションのなかでも、とくにアカウントの停止に関する諸プロセスについては、高度な公平性と透明性が求められると考えられる。それは、個人の一部の投稿の内容の傾向に基づいてアカウント自体を停止するということは、その者の表現の発信の機会を奪ううえに、他の者の当該表現の受信の機会も奪うことになるからである。この文脈では、SNS事業者が恣意的に(とくにルールに必ずしも明示されていない)特定の視点や観点を排除することは、可能なかぎり避けられるべきであると考えられる。(この観点からは、ツイッター社が2021年1月にトランプ氏のアカウントを一時的に停止した後に、半永久的な停止を決めたことについては、批判的に評する声が、トランプ氏の政治思想に反対する論者からも出ていることに注目すべきである。)
 今回のマスク氏の一連の動きは、全世界につながる表現の「場」が、膨大な資産を保有する一個人のいわば「気まぐれ」によって容易に操作されうるということを改めて実感させる契機となった。SNSは、歴史の浅い表現媒体であり、その機能自体が日々進化するものであるし、その影響力もいまだ検証の過程にある。そのため、そこでの表現の管理のあり方についても、自由な表現市場の維持と社会や個人の安全や平穏の確保とのバランスを図るべく、多様な視点から検証を続けていく必要がある。


◆小谷順子(こたに じゅんこ)さんのプロフィール
静岡大学教授。専門は憲法学(とくに、ヘイトスピーチ規制についてのアメリカやカナダ等と日本の比較研究など)。近年の当該分野の著作として、「社会の分極化とヘイトスピーチ」憲法問題32号33頁(2021年)、「集会及び表現の自由とその「場」の確保」判例時報2465・2466号155頁(2021年)ほか。