憲法改正を考える

憲法改正とは?

憲法改正とは、憲法の定める手続に従い、憲法典中の個別条項について削除・修正・追加を行うことにより、または、新たな条項を加えて憲法典を増補することによって、意識的に憲法を変更することをいいます。
 憲法の本質は、個人の人権を保障するために、国家権力を制限するところにあります。そこには立憲主義という人類の英知が凝縮されています。人間はどんなにすばらしい人でも過ちを犯すことがある。そこで予め憲法で歯止めをかけておこうという人間に対する謙虚さの表れでもあり、極めて合理的な仕組みといえます。
 そのため、憲法改正は、憲法制定権者である国民がどうしても改憲が必要だという意思を持ち、その国民の改憲意思を国会議員が受け止めて、国会において発議され、国民の間で十分に議論されて進められるべきものです。
 したがって、現行憲法では人権保障が不十分だからどうしても憲法改正が必要だという国民の改憲意識を受けた改正は議論されるべきですが、憲法で縛られる為政者の側から主張される、為政者のより自由な権力行使を可能にし、同時に国民に不自由を強いる憲法改正はなされるべきではありません。



憲法改正が必要な場合とは?
 また、憲法の改正を考える場合、最初に憲法の条項のどこにどのような問題があって、それは当該条項を改正しないと解決できないのか、憲法改正をなす必要があるのかどうか見極める必要があります。法律の制定や改正によって実現可能な事項については、法律によって対応するのが妥当です。憲法典を改正しても、法律が制定されなければ具体的に実現されるわけではないからです。



憲法改正手続が厳格な理由
 こうして考えてみると、憲法改正の手続は、通常の選挙以上に、慎重でなければなりません。憲法改正は、「各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会がこれを発議し」、国民に提案し、国民投票により「国民の過半数の賛成」による承認を経なければならない(憲法96条1項)とされているのは、そのためです。憲法も、社会の大きな変化に適応するため可変性は必要ですが、同時に国家の基本法として高度の安定性が要求されるため、改正手続は通常の立法手続よりも厳格化されているのです。
 憲法改正の国民投票は、通常の選挙とは異なり、代表者による審議・討論・妥協のプロセスがありません。また、投票結果はどのような不当なものであっても、主権者たる国民の意思が表明されたことを理由に正当化されてしまう危険があります。さらに、憲法改正手続は、少数者を守るはずの憲法を多数意見で変更するというジレンマを内在しているので、慎重になされる必要があります。
 なお、憲法改正手続法(国民投票法)には、テレビ・ラジオ・インターネットによる意見広告や運動資金の規制の是非など検討すべき問題が未解決のまま多数残されています。資金力によって偏った内容の意見広告が氾濫し、憲法改正の十分な国民的議論がなされず、国民がムードや雰囲気に流されてしまう中で憲法改正が強行されると、取り返しのつかない事態を招くことに注意しなければなりません。