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浦部法穂の「憲法雑記帳」
第42回 2nd Movement(第2楽章)
浦部法穂・法学館憲法研究所顧問
2022年5月25日

 アメリカやヨーロッパの国々には、クラシック音楽専門のFM局がいくつもあり、今ではインターネットを通じてそれらを聴くことができる。そのなかには、スマートフォン用のアプリを提供しているものもあり、私は、最近では、それらのアプリをダウンロードして、散歩の時や電車・バス等での移動中に、スマホでクラシック音楽を聴いていることが多い。個人的におすすめの局は、アリゾナ州フェニックスのKBAQ(KBACH)とサンフランシスコのKDFCである(比較的私の好みに合った曲を流していることが多い、というだけの理由だが)。別に「クラシック・ファン」を気取るつもりはなく、クラシック音楽の「通」でもないが、最近の若い人たちの音楽は、たしかに音楽作品としてレベルの高いものが少なくないとは思うものの、私には難解すぎて付いていけないのである。

 ところで、クラシック音楽において、たとえば交響曲とか協奏曲・ソナタなど、「楽章」をもつ曲は、第2楽章(2nd Movement)にテンポの遅いゆったりとした「緩徐楽章」を置くことが多い。たとえば、ベートーベンの9つの交響曲をみてみると、交響曲第1番の第2楽章はAndante cantabile con moto(Andante〔ゆっくり歩くような速さ〕より少し速く、歌うように)、第2番の第2楽章はLarghetto(Largo〔ゆったりと遅く〕より少し速く)、第3番(『エロイカ(英雄)』)第2楽章は『葬送行進曲』でAdagio assai(きわめてゆるやかに)、第4番第2楽章はAdagio(ゆるやかに)、第5番(『運命』)の第2楽章はAndante con moto、第6番(『田園』)第2楽章はAndanteという具合に、第2楽章にはすべてゆったりした曲が置かれている。第7番の第2楽章はAllegretto(やや速く)となっているが、この曲全体の中では最も遅い楽章である。第8番の第2楽章はAllegretto scherzando(やや速くたわむれるように)であり、この8番は、ベートーベンの交響曲の中で唯一(見方によっては7番とともに)緩徐楽章をもたない交響曲である。そして第9番の第2楽章はMolto vivace(とても速く)で始まる速い楽章となっているが、その代わり第3楽章がAdagio molto e cantabileで始まる緩徐楽章となっている。この『第九』は、第2楽章と第3楽章を入れ替えた変則的な形をとったものである。

 というように、第2楽章はゆったりとした曲が多く、いつまでも色あせない、心に染み入るような名曲も数多くある。その中で、何度聴いても飽きることなく、聴くたびに心の安らぎを得られる、私のなかの名曲選として、以下の曲を挙げさせていただこう。

・モーツアルト ピアノ協奏曲第20番 第2楽章(Romance)
・モーツアルト ピアノ協奏曲第21番 第2楽章(Andante)
・モーツアルト クラリネット協奏曲 第2楽章(Adagio)
・ベートーベン ピアノソナタ第8番『悲愴』 第2楽章(Adagio cantabile)
・ブラームス バイオリンソナタ第3番 第2楽章(Adagio)
・パガニーニ バイオリン協奏曲第4番 第2楽章(Adagio)

 これらは、テレビのCMやドラマや、映画でも使われた、誰もが知っている名曲ばかりであるが、なかでも、私のイチオシNo.1は、モーツアルトのクラリネット協奏曲の第2楽章である。むかし見た映画の中で、主人公がこの曲を「この世で一番美しいメロディー」と評していたような記憶があるが(定かではないが)、まさにそのとおりだと思う。心の安らぎと、なんともいえない安心感、そして希望を感じさせてくれる、それこそ「天空からのメロディー」である。

 さて、話しは急に生臭くなるが、ロシアによるウクライナ侵攻を機に、日本国内では、「敵基地攻撃能力」「反撃能力」をもつべきだ、だの、「核共有」を真剣に考えるべきだ、だの、よく考えもせず威勢がいいだけの荒々しい議論がさかんである。そして、憲法9条が安全保障の妨げになっているとばかりに、9条改憲論が政治の場でもまたぞろ勢いを得ている。この、「改憲」の”2nd Movement”は、ただただ荒々しいだけで、深い考察も熟慮もなく、恐怖・不安と憎悪・敵愾心・攻撃性をかき立てるものとなっている。そして、この夏の参議院選挙の結果次第では、そういう内容の日本国憲法の「第2楽章」が作られてしまう恐れも、現実的にある。行け行けどんどんでそんな方向に突き進んでしまったなら、それは、現在及び将来の国民に、取り返しのつかない悲劇をもたらすこととなろう。日本国憲法の「第2楽章」を、もし作るのだとしたら、そんな荒々しく粗野なものではなく、数々の第2楽章の名曲のように、人々に安らぎを与え、安心感と希望をもたらすような内容のものにしなければならない。目先の事態・事象や軽薄で威勢がいいだけの議論に惑わされて突き進んでしまっては、いいことは一つもない。
 なにやら無理矢理こじつけたような話になってしまったが、こういう荒々しい議論が横行しているときだからこそ、第2楽章のゆったりした名曲、「天空からのメロディー」を聴いて、心を落ち着かせることも必要だと思う。

 「天空からのメロディー」ということで言えば、もう一つ、第2楽章の曲ではないが、サン=サーンス作曲のオペラ『サムソンとデリラ』の中の『あなたの声に私の心は開く』も、モーツアルト・クラリネット協奏曲第2楽章に劣らず、えも言えぬ素晴らしい曲である。


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